新私訳:韓国の民法 その19<第1060条~第1118条>

   第2章 遺言
    第1節 総則
 (遺言の要式性)0960
第1060条 遺言は、この法の定めた方式によらなければ、効力を生じない。
 (遺言適齢)0961
第1061条 17歳に達しない者は、遺言をすることができない。
 (制限行為能力者の遺言)0962
第1062条 遺言については、第5条、第10条及び第13条の規定を適用しない。
 (成年被後見人の遺言能力)0963:0973
第1063条 成年被後見人は、意思能力が回復したときに限り、遺言をすることができる。
 前項の場合には、医師が、心神回復の状態を遺言書に付記し、署名押印しなければならない。
 (遺言と胎児及び相続欠格者)0965
第1064条 第1000条第3項及び第1004条の規定は、受遺者について準用する。
    第2節 遺言の方式
 (遺言の普通方式)0967
第1065条 遺言の方式は、自筆証書、録音、公正証書、秘密証書及び口授証書の5種とする。
 (自筆証書による遺言)0968-01.03
第1066条 自筆証書による遺言は、遺言者が、その全文並びに年月日、住所及び姓名を自書し、押印しなければならない。
 前項の証書において文字の挿入、削除又は変更をするには、遺言者が、これを自書し、押印しなければならない。
 (録音による遺言)
第1067条 録音による遺言は、遺言者が遺言の趣旨、その姓名及び年月日を口述し、これに立ち会った証人が遺言の正確なこと及びその姓名を口述しなければならない
 (公正証書による遺言)0969
第1068条 公正証書による遺言は、遺言者が証人2人の立ち会った公証人の面前において遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記朗読し、遺言者及び証人がその正確なことを承認した後に各自署名又は記名押印をしなければならない。
 (秘密証書による遺言)0970-01
第1069条 秘密証書による遺言は、遺言者が、筆者の姓名を記入した証書を厳封押印し、これを2人以上の証人の面前に提出し、自己の遺言書である旨を表示した後、その封書表面に提出年月日を記載して、遺言者及び証人が各自署名又は記名押印をしなければならない。
 前項の方式による遺言の封書は、その表面に記載した日から5日内に公証人又は裁判所書記に提出し、その封印上に確定日付印を受けなければならない。
 (口授証書による遺言)0976-01.04
第1070条 口授証書による遺言は、疾病その他の急迫な事由によって第1066条から前条までの方式によることができない場合に、遺言者が2人以上の証人の立会いをもってその一人に遺言の趣旨を口授し、その口授を受けた者がこれを筆記朗読し、遺言者及び証人がその正確なことを承認した後に各自署名又は記名押印をしなければならない。
 前項の方式による遺言は、その証人又は利害関係人が、急迫な事由の終了した日から7日内に、裁判所にその検認を申請しなければならない。
 第1063条第2項の規定は、口授証書による遺言について適用しない。
 (秘密証書による遺言の転換)0971
第1071条 秘密証書による遺言がその方式に欠缺のある場合において、その証書が自筆証書の方式に適するときは、自筆証書による遺言とみなす。
 (証人の欠格事由)0974
第1072条 次に掲げる者は、遺言に立ち会う証人となることができない。
 (1) 未成年者
 (2) 成年被後見人及び被保佐人
 (3) 遺言により利益を受けるべき者並びにその配偶者及び直系血族
 公正証書による遺言には、公証人法の規定による欠格者は、証人となることができない。
    第3節 遺言の效力
 (遺言の効力発生時期)0985
第1073条 遺言は、遺言者が死亡した時から効力を生じる。
 遺言に停止条件がある場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、その条件が成就した時から遺言の効力を生じる。
 (遺贈の承認及び放棄)0986
第1074条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈を承認し、又は放棄することができる。
 前項に規定する承認又は放棄は、遺言者の死亡した時に遡って効力を生じる。
 (遺贈の承認及び放棄の取消禁止)0989
第1075条 遺贈の承認又は放棄は、取り消すことができない。
 第1024条第2項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
 (受遺者の相続人の承認及び放棄)0988
第1076条 受遺者が承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、相続分の限度で承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは、その意思による。
 (遺贈義務者の催告権)0987
第1077条 遺贈義務者又は利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に承認又は放棄を確答すべき旨を受遺者又はその相続人に催告をすることができる。
 前項の期間内に受遺者又は相続人が遺贈義務者に催告に対する確答をしないときは、遺贈を承認したものとみなす。
 (包括受遺者の権利義務)0990
第1078条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
 (受遺者の果実取得権)0992
第1079条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時からその目的物の果実を取得する。ただし、遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは、その意思による。
 (果実の収取費用の償還請求権)0993-02
第1080条 遺贈義務者が遺言者の死亡後にその目的物の果実を収取するために必要費を支出したときは、その果実の価額の限度で、果実を取得した受遺者に償還を請求することができる。
 (遺贈義務者の費用償還請求権)0993-01
第1081条 遺贈義務者が遺贈者の死亡後にその目的物に関し費用を支出した場合については、第325条の規定を準用する。
 (不特定物の遺贈義務者の担保責任)0998
第1082条 不特定物を遺贈の目的とした場合には、遺贈義務者は、その目的物について売主と同じ担保責任を負う。
 前項の場合において、目的物に瑕疵があるときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物を引き渡さなければならない。
 (遺贈の物上代位性)0999-01
第1083条 遺贈者が遺贈の目的物の滅失、毀損又は占有の侵害によって第三者に損害賠償を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものとみなす。
 (債権の遺贈の物上代位性)1001
第1084条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者がその弁済を受けた物が相続財産中にあるときは、その物を遺贈の目的としたものとみなす。
 前項の債権が金銭を目的とした場合においては、その弁済を受けた債権額に相当する金銭が相続財産中にないときでも、その金額を遺贈の目的としたものとみなす。
 (第三者の権利の目的であった物又は権利の遺贈)0998
第1085条 遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時に第三者の権利の目的であった場合には、受遺者は、遺贈義務者に対してその第三者の権利を消滅させることを請求することができない。
 (遺言者が別段の意思表示をした場合)0998但
第1086条 前3条の場合において、遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは、その意思による。
 (相続財産に属さない権利の遺贈)0996:0997
第1087条 遺言の目的となった権利が遺言者の死亡の時に相続財産に属さなかったときは、遺言は、効力を生じない。ただし、遺言者が自己の死亡の時にその目的物が相続財産に属さない場合であっても遺言の効力が生じるものとする意思であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得し、受遺者に移転する義務を負う。
 前項ただし書の場合において、その権利を取得することができず、又はその取得に過分な費用を要するときは、その価額を弁償することができる。
 (負担付遺贈と受遺者の責任)1002-01:1003
第1088条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度で、負担した義務を履行する責任を負う。
 遺贈の目的の価額が限定承認又は財産分離によって減少したときは、受遺者は、その減少した限度で、負担すべき義務を免れる。
 (遺贈の効力発生前の受遺者の死亡)0994
第1089条 遺贈は、遺言者の死亡前に受遺者が死亡したときは、効力を生じない。
 停止条件付遺贈は、受遺者がその条件の成就前に死亡したときは、効力を生じない。
 (遺贈の無効及び失効の場合と目的財産の帰属)0995
第1090条 遺贈が効力を生ぜず、又は受遺者がこれを放棄したときは、遺贈の目的である財産は、相続人に帰属する。ただし、遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは、その意思による。
    第4節 遺言の執行
 (遺言証書及び録音の検認)1004-01.02
第1091条 遺言証書又は録音を保管する者又はこれを発見した者は、遺言者の死亡後、遅滞なく、裁判所に提出し、その検認を請求しなければならない。
 前項の規定は、公正証書又は口授証書による遺言について適用しない。
 (遺言証書の開封1004-03
第1092条 裁判所が封印された遺言証書を開封するときは、遺言者の相続人、その代理人その他の利害関係人の立会いがなければならない。
 (遺言執行者の指定)1006-01
第1093条 遺言者は、遺言で、遺言執行者を指定することができ、又はその指定を第三者に委託することができる。
 (委託による遺言執行者の指定)1006-02.03
第1094条 前条の委託を受けた第三者は、その委託のあることを知った後、遅滞なく、遺言執行者を指定して相続人に通知しなければならず、その委託を辞退するときはその旨を相続人に通知しなければならない。
 相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に遺言執行者を指定すべき旨を委託を受けた者に催告することができる。この場合において、その期間内に指定の通知を受けることができなかったときは、その指定の委託を辞退したものとみなす。
 (指定遺言執行者がない場合)
第1095条 前2条の規定により指定された遺言執行者がないときは、相続人が遺言執行者となる。
 (裁判所による遺言執行者の選任)1010
第1096条 遺言執行者がなく、又は死亡若しくは欠格その他の事由によって欠けたときは、裁判所は、利害関係人の請求により、遺言執行者を選任しなければならない。
 裁判所が遺言執行者を選任した場合には、その任務に関し必要な処分を命じることができる。
 (遺言執行者の承諾及び辞退)1008
第1097条 指定による遺言執行者は、遺言者の死亡後、遅滞なく、これを承諾し、又は辞退する旨を相続人に通知しなければならない。
 選任による遺言執行者は、選任の通知を受けた後、遅滞なく、これを承諾し、又は辞退する旨を裁判所に通知しなければならない。
 相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に諾否を確答すべき旨を指定又は選任による遺言執行者に催告することができる。この場合において、その期間内に催告に対する確答を受けることができなかったときは、遺言執行者がその就任を承諾したものとみなす。
 (遺言執行者の欠格事由)1009
第1098条 制限行為能力者及び破産宣告を受けた者は、遺言執行者となることができない。
 (遺言執行者の任務の着手)1007-01
第1099条 遺言執行者がその就任を承諾したときは、遅滞なく、その任務を履行しなければならない。
 (財産目録の作成)1011
第1100条 遺言が財産に関するものであるときは、 指定又は選任による遺言執行者は、遅滞なく、その財産目録を作成し、相続人に交付しなければならない。
 相続人の請求があるときは、前項の財産目録の作成に相続人を立ち会わせなければならない。
 (遺言執行者の権利義務)1012-01
第1101条 遺言執行者は、遺贈の目的である財産の管理その他の遺言の執行に必要な行為をする権利義務を有する。
 (共同遺言執行)1017
第1102条 遺言執行者が数人ある場合には、任務の執行は、その過半数の賛成をもって 決定する。ただし、保存行為は、各自がすることができる。
 (遺言執行者の地位)1015:1012-03
第1103条 指定又は選任による遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
 第681条から第685条まで、第687条、第691条及び第692条の規定は、遺言執行者について準用する。
 (遺言執行者の報酬)1018
第1104条 遺言者が遺言に遺言執行者の報酬を定めなかった場合には、裁判所は、相続財産の状況その他の事情を考慮して指定又は選任による遺言執行者の報酬を定めることができる。
 遺言執行者が報酬を受ける場合については、第686条第2項及び第3項の規定を準用する。
 (遺言執行者の辞退)1019-02
第1105条 指定又は選任による遺言執行者は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、その任務を辞退することができる。
 (遺言執行者の解任)1019-01
第1106条 指定又は選任による遺言執行者にその任務を怠り、又は適当でない事由があるときは、裁判所は、相続人その他の利害関係人の請求により、遺言執行者を解任することができる
 (遺言執行の費用)1021
第1107条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の中から支払う。
    第5節 遺言の撤回
 (遺言の撤回)1022:1026
第1108条 遺言者は、いつでも遺言又は生前行為をもって遺言の全部又は一部を撤回することができる。
 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
 (遺言の抵触)1023
第1109条 前後の遺言が抵触し、又は遺言後の生前行為が遺言と抵触する場合には、その抵触した部分に係る従前の遺言は、撤回したものとみなす。
 (破棄による遺言の撤回)1024
第1110条 遺言者が故意に遺言証書又は遺贈の目的物を破棄したときは、その破棄した部分に係る遺言は、撤回したものとみなす。
 (負担付遺贈の取消し)1027
第1111条 負担付遺贈を受けた者がその負担義務を履行しないときは、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めて履行すべき旨を催告し、その期間内に履行しないときは、裁判所に遺言の取消しを請求することができる。 ただし、第三者の利益を害することができない。
   第3章 遺留分
 (遺留分権利者と遺留分1042
第1112条 相続人の遺留分は、次に定めるところによる。
 (1) 被相続人直系卑属は、その法定相続分の2分の1
 (2) 被相続人の配偶者は、その法定相続分の2分の1
 (3) 被相続人直系尊属は、その法定相続分の3分の1
 (4) 被相続人の兄弟姉妹は、その法定相続分の3分の1
 遺留分の算定)1043
第1113条 遺留分は、被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に贈与財産の価額を加算してから債務の全額を控除して算定する。
 条件付権利又は存続期間が不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価により、その価格を定める。
 (算入すべき贈与)1044-01
第1114条  贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算定する。 当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与をしたときは、1年前より前にしたものについても、同様とする。
 (遺留分保全1046:1047-01
第1115条 遺留分権利者は、被相続人の前条に規定された贈与又は遺贈によってその遺留分に不足が生じたときは、不足した限度で、その財産の返還を請求することができる。
 前項の場合において、贈与又は遺贈を受けた者が数人あるときは、各自が受けた遺贈の価額に応じて返還しなければならない。
 (返還の順序)1047-01
第1116条 贈与に対しては、遺贈の返還がされた後でなければ、返還を請求することができない。
 (消滅時効1048
第1117条 返還の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び返還すべき贈与又は遺贈をした事実を知った時から1年内にしないときは、時効によって消滅する。 相続が開始した時から10年を経過したときも、同様とする。
(準用規定)
第1118条 第1001条、第1008条及び第1010条の規定は、遺留分について準用する。